Sweetな彼、Bitterな彼女
聞き慣れない形容詞に思わず振り返る。
蒼は、にやりと笑った。
「しかも、エロいし」
「かわっ……エロって……」
「だから、煙草は禁止」
わたしが指に挟んでいた煙草を抜き取って、シンクに落とし、ご丁寧に水までかける。
「ちょっとっ! んぅ!」
抗議しようとした唇に、キスが降って来た。
「煙草より、こっちのほうが気持ちいいでしょ?」
「それとこれとはっ……」
腰に回された手が、無防備な胸へと伸びる。
「もっと、欲しい?」
「そ、んなわけっ……」
一度冷えたはずの身体は、キスと愛撫で再び熱くなり、蕩けてしまう。
「俺、紅の禁煙に協力するよ。煙草が吸いたくなったら、言って。代わりにキスするから。いつでも、どこででも」
「いつでもっ……なん、て……そんなこと、できるわけ……」
「恋人なら、できる」
「こい、びとって……わたし、たちは……」
恋人ではないと言おうとした口を再びキスで塞がれて、キッチンの床に押し倒された。
「紅は、好きでもない男と寝て、好きでもない男に抱かれて……こんなに、感じるんだ?」
どんな言葉を口にしようとも、身体は心を裏切れない。
蒼を受け入れ、満たされることに悦びを感じている。
それでも、素直になりきれないわたしは、最後まであがく。
「あ、蒼……こそっ……」
「俺は、紅が好きだよ。好きだから追いかけて、追い詰めて、自分のものにしたかった。紅は?」
「…………」
とっくの昔に、堕ちていた。
もう、引き返すには遅い。
あの時――甘く蕩けた笑みを見た時から、わたしは……。
「わたしも……蒼が、好き…………だと思う」
ようやく告白したわたしに、蒼は憎たらしい笑みを浮かべて頷いた。
「うん。知ってた」