Sweetな彼、Bitterな彼女

聞き慣れない形容詞に思わず振り返る。
蒼は、にやりと笑った。


「しかも、エロいし」

「かわっ……エロって……」

「だから、煙草は禁止」


わたしが指に挟んでいた煙草を抜き取って、シンクに落とし、ご丁寧に水までかける。


「ちょっとっ! んぅ!」


抗議しようとした唇に、キスが降って来た。


「煙草より、こっちのほうが気持ちいいでしょ?」

「それとこれとはっ……」


腰に回された手が、無防備な胸へと伸びる。


「もっと、欲しい?」

「そ、んなわけっ……」


一度冷えたはずの身体は、キスと愛撫で再び熱くなり、蕩けてしまう。


「俺、紅の禁煙に協力するよ。煙草が吸いたくなったら、言って。代わりにキスするから。いつでも、どこででも」

「いつでもっ……なん、て……そんなこと、できるわけ……」

「恋人なら、できる」

「こい、びとって……わたし、たちは……」


恋人ではないと言おうとした口を再びキスで塞がれて、キッチンの床に押し倒された。


「紅は、好きでもない男と寝て、好きでもない男に抱かれて……こんなに、感じるんだ?」


どんな言葉を口にしようとも、身体は心を裏切れない。
蒼を受け入れ、満たされることに悦びを感じている。

それでも、素直になりきれないわたしは、最後まであがく。


「あ、蒼……こそっ……」

「俺は、紅が好きだよ。好きだから追いかけて、追い詰めて、自分のものにしたかった。紅は?」

「…………」



とっくの昔に、堕ちていた。

もう、引き返すには遅い。



あの時――甘く蕩けた笑みを見た時から、わたしは……。



「わたしも……蒼が、好き…………だと思う」


ようやく告白したわたしに、蒼は憎たらしい笑みを浮かべて頷いた。


「うん。知ってた」


< 31 / 130 >

この作品をシェア

pagetop