Sweetな彼、Bitterな彼女
「雪柳くんも知っているとは思うけれど……黒田くんは、社内の重要人物とお付き合いしているからね。十分、配慮してあげてほしい」
(な、何を言い出すのーっ!? 課長っ!)
雪柳課長は首を捻ってしばし考え込む様子を見せたが、すぐに思い当たったようだ。
「もしかして、白崎 蒼を飼っているという年上の女子社員は……黒田か?」
「かっ……飼ってませんっ!!」
誤解と偏見に塗れた言葉に、相手が誰であるかも忘れてつい抗議してしまった。
「そうか? 黒田の姿を見かけると、尻尾を振って飛んで行くらしいじゃないか」
真面目な顔で言われ、頬が熱くなる。
「そ、そんなことっ……」
ない、とは言えなかった。
社内でわたしを見かけると、蒼は何をしていようと、どこにいようと、必ず駆け寄って来る。
わたしたちが付き合うようになって一年。
そんな蒼の行動に、社内の人間はすっかり慣れてしまって、咎められるどころか呆れられている。
わたしも、思いついたら即行動の蒼には、何を言っても無駄だと諦めていた。
諦めていたけれど……改めて指摘されるとものすごく恥ずかしい。
雪柳課長は、うろたえるわたしの様子がおかしかったらしく、ふっと頬を緩ませる。
「涼しい顔をして受け流すかと思えば……」
近寄りがたく見える凛々しい顔つきが、一瞬にして柔らかく優しいものへと変わり、不覚にもドキッとしてしまった。
「白崎に、これからもすばらしいデザインを生み出してもらうためにも、黒田が仕事漬けにならないよう、注意する」
「い、いえっ! 仕事とプライベートは分けていますので、お気遣いいただかなくとも結構ですっ!」
公私混同はしたくないと言えば、なぜか苦笑される。
「無理な話だろ。忠犬に噛みつかれないよう、気をつけるよ。ところで……今夜は、白崎と約束していないのか?」
「あっ!」
時計を見れば、終業時刻を十五分も過ぎている。
蒼とは、エレベーターホールで待ち合わせているけれど、痺れを切らしてオフィスまで迎えに来ているかもしれない。
「今日は、顔合わせしたかっただけだから、帰っていいよ」
横田課長が笑いながら目配せする。
「すみません、あの、でも……」
「僕も早く帰らなくちゃ、奥さんに怒られるし」
横田課長が立ち上がり、素早く三橋係長がドアを開けたそこには、紅茶色の髪の持ち主がいた。