Sweetな彼、Bitterな彼女
今夏、人気のカフェ『TSUBAKI』と『KOKONOE』がタイアップして期間限定の店舗をオープンさせるプロジェクトの発案者は、蒼だと聞いている。
「ねえ、蒼。期間限定で『KOKONOE』の家具を使ったカフェをオープンするプロジェクトが始まるって聞いたけど……」
「うん。『TSUBAKI』のチーフプロデューサーが、大学の先輩なんだけど、新しいスタイルの店舗を検討しているって話を聞いて、思いついたんだ」
蒼は、身を乗り出すようにして、話し出す。
「いくつかのコンセプトに沿って、『KOKONOE』の既存商品や試作品を使った店づくりをするんだ。反応を見ながら、ある程度の期間で家具を入れ替える。たぶん、夏の終わり頃まで、かかりきりになると思う」
「インテリアコーディネートの実物見本を用意するってこと?」
「大雑把に言えば、そんな感じ。購買意欲を刺激するのが狙いだけど、市場調査も兼ねる。試作品の反応も確かめられるし、既存商品の改善も検討できるしね。期間限定のノベルティも作るよ」
「その気がなくとも、つい欲しくなっちゃいそうね?」
「まあね。でも、紅も言ってたように、その場ではすごく良く見えた家具も、実際部屋に置くとなると、大きさとかほかの家具とかとの相性もあるから。人気のインテリアコーディネーターを招いて、ワークショップなんかもしてみようかって、考えてるところ」
夢中になって話す蒼を見ていると、わたしまでワクワクしてしまう。
蒼が作り出すものを早く見たいと思う。
いままでのように、週に一、二度会うことさえ難しくなるかもしれないが、そのほうが蒼への気持ちが加速せずに済む。
頻繁に会えないのが普通なら、会えないことを寂しいと思うこともない。
「無理はしないでね? でも、頑張って」
「ありがとう、紅。……ところで、さっき一緒にいたの、雪柳課長だよね? 何かあった? トラブルとか?」
「そういうわけじゃないから、大丈夫よ」
「もしかして……異動?」
「わたしの口からは、言えない」
正式な発表があるまで、人事異動について大っぴらには言えない。
だから、「言えない」ということが答えになる。
「そっか……」