Sweetな彼、Bitterな彼女

蒼は、なぜか浮かない表情をした。

「どうかしたの? 蒼?」

「なんか……複雑な気分。雪柳課長って、独身だし。仕事できるし、容姿端麗だし。でも、女性関係の悪い噂はないし。大人で頼りがいもありそうだし。あの人、社内で結婚したい男ナンバーワンって言われてるよね……」

「そうらしいわね?」


雪柳課長とまともに会話をしたのは今日が初めてだ。
人となりは、まだよくわからない。


「そんな人なら、紅だって好きにならずにはいられないかも」

「え?」


予想もしていなかった言葉に、唖然とした。

確かに、雪柳課長は女子社員に人気がある。

けれど、仕事とプライベートはきっちりわけたいわたしの場合、「上司」というだけで恋愛対象から外れる。

「蒼……わたしは、同じ部署で働く相手には――ましてや上司になんて、恋愛感情は持てない」


蒼でなければ、社内の人間と付き合おうなんて思わなかった、なんて口説き文句の一つも言えればいいのだけれど……。

人目のある場所では――いや、人目のない場所でも無理だ。

蒼は、「はあ」と息を吐いて、ぐしゃぐしゃと紅茶色の髪をかきまわした。


「俺、紅がほかの男といるだけでも嫉妬するのに。あんな人が傍にいると思ったら、落ち着かない……」

「一緒に仕事するだけなのに?」

「だからだよ。だって……仕事をしている時の紅は、大人だから」

「え……」


仕事していないときは、大人ではないと思われていたのだろうか。

地味にショックだ。


「……仕事してなくても、大人なんだけど?」


一応反論してみたところ、蒼は苦笑した。


「仕事モードの紅は、カワイイじゃなく、カッコイイの方だって意味だよ。雪柳課長みたいな人は、仕事モードの紅が好きそうだから」

「あのね、蒼。雪柳課長みたいに仕事だけじゃなく、プライベートもソツなくこなしていそうな人が、わたしに興味を抱くはずがないでしょ?」

「でも、紅は? そういう人を魅力的だと思わない?」


嫉妬――束縛、独占欲。

自分では抱きたくない感情も、蒼のものなら嬉しいと思ってしまう。

ただし。
< 42 / 130 >

この作品をシェア

pagetop