Sweetな彼、Bitterな彼女
蒼は、なぜか浮かない表情をした。
「どうかしたの? 蒼?」
「なんか……複雑な気分。雪柳課長って、独身だし。仕事できるし、容姿端麗だし。でも、女性関係の悪い噂はないし。大人で頼りがいもありそうだし。あの人、社内で結婚したい男ナンバーワンって言われてるよね……」
「そうらしいわね?」
雪柳課長とまともに会話をしたのは今日が初めてだ。
人となりは、まだよくわからない。
「そんな人なら、紅だって好きにならずにはいられないかも」
「え?」
予想もしていなかった言葉に、唖然とした。
確かに、雪柳課長は女子社員に人気がある。
けれど、仕事とプライベートはきっちりわけたいわたしの場合、「上司」というだけで恋愛対象から外れる。
「蒼……わたしは、同じ部署で働く相手には――ましてや上司になんて、恋愛感情は持てない」
蒼でなければ、社内の人間と付き合おうなんて思わなかった、なんて口説き文句の一つも言えればいいのだけれど……。
人目のある場所では――いや、人目のない場所でも無理だ。
蒼は、「はあ」と息を吐いて、ぐしゃぐしゃと紅茶色の髪をかきまわした。
「俺、紅がほかの男といるだけでも嫉妬するのに。あんな人が傍にいると思ったら、落ち着かない……」
「一緒に仕事するだけなのに?」
「だからだよ。だって……仕事をしている時の紅は、大人だから」
「え……」
仕事していないときは、大人ではないと思われていたのだろうか。
地味にショックだ。
「……仕事してなくても、大人なんだけど?」
一応反論してみたところ、蒼は苦笑した。
「仕事モードの紅は、カワイイじゃなく、カッコイイの方だって意味だよ。雪柳課長みたいな人は、仕事モードの紅が好きそうだから」
「あのね、蒼。雪柳課長みたいに仕事だけじゃなく、プライベートもソツなくこなしていそうな人が、わたしに興味を抱くはずがないでしょ?」
「でも、紅は? そういう人を魅力的だと思わない?」
嫉妬――束縛、独占欲。
自分では抱きたくない感情も、蒼のものなら嬉しいと思ってしまう。
ただし。