Sweetな彼、Bitterな彼女

「持ち上げても、何も出ないぞ?」

「事実ですから」

「黒田に幻滅されないよう、精進するよ」


ふっと笑った雪柳課長は、背後で上がった大きな笑い声に眉根を寄せた。


「ところで……白崎とは、会えているのか?」


普段、仕事に関係のない話――特に恋愛関係にはあまり踏み込んでこない雪柳課長の意外な問いに、目を瞬く。


「てっきり、予定を合わせて、長期休暇を取るものだと思っていたんだが……」

「蒼は、プロジェクトで忙しいので」

「それも、今月末で終わるだろう?」

「いろいろと付き合いもあるでしょうし……邪魔はしたくないので」


雪柳課長は顔をしかめたが、ふと「しかたないな」と呟いた。


「ひと口くれ」

「はい?」


ぽかんとするわたしの目の前で、雪柳課長はわたしのコーヒーを取り上げて、ひと口どころかグビグビ飲んだ。


「借りは返したぞ」

「は?」


にやりと笑い、颯爽とした足取りで去って行く。

押しつけられた紙コップは、軽い。
半分ほど残っていたはずのコーヒーは、一滴も残っていないようだ。


(課長……)


もう一杯買うしかないと溜息を漏らした手から、紙コップが消えた。


「こっち飲んで、紅」


消えた紙コップの代わりに、別の紙コップを差し出される。

いつの間にか、蒼が傍らに立ってこちらを見下ろしていた。


「蒼……?」

「カフェラテ」

「でも、これ蒼が飲んでいたんじゃ……」


蒼は砂糖入りのカフェラテを飲むので、あまりありがたくない。
そんなわたしの気持ちを見透かしてか、ややむっとした表情で説明する。


「チョコレート食べてたから、砂糖は入れてないよ。だから、紅も飲める」

「そ、そう? じゃあ、もらうわ」


蒼と談笑していた人たちの視線をひしひしと感じながら、せっかくだからいまのうちに誕生日の予定を訊いてしまおうと思った。


「蒼……カフェのプロジェクト、もうすぐ終わるでしょう? 打ち上げとか、そういった予定は?」

「閉店する金曜日に打ち上げをする予定。翌月曜には、反省会というか、成果の検証をすることになってるから、土日で資料をまとめる」


予想どおりだが、それでもがっかりしてしまうのは否めない。


「それなら、蒼の誕生日にお祝いするのは無理そうね」

「あ……」

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