Sweetな彼、Bitterな彼女
寝間着代わりのTシャツの裾から侵入した手が、わたしの胸へと伸びる。
「蒼。もう……寝る時間」
「熟睡できる方法があるんだけど?」
「ん……っ」
蒼にとって、わたしを陥落させるのは簡単だ。
触れるだけで、あっという間にわたしの身体は溶けてしまうのだから。
いつものようにわたしを蕩かし、味わって、ようやく蒼はわたしが眠ることを許す。
「プロジェクトは楽しかったけど……こんなに会えなくなるなんて、思ってなかった。ずっと、紅が足りなかった。紅を補給するのに、毎日会いたい」
「わた……」
わたしも、と言いかけて、慌てて言い直す。
「蒼が、忙しくないならね?」
プロジェクトが終わっても、これまでどおりの忙しさはそのまま。
それどころか、もっと忙しくなるかもしれない。
蒼は、「はぁ」と溜息を吐いて、わたしの首筋に顔を埋めた。
「紅と、ずっと一緒にいたいのに……」
わたしが蒼の部屋に毎晩泊まるなり、入り浸るなりすれば、毎日顔を見ることは可能だ。
けれど……そんな生活に慣れてしまったら、きっと会わずにはいられなくなる。
だから、そんなことはできない。
しては、いけない。
「毎日でなくても、会えるだけで十分。会っている時は、わたしのことだけ考えてくれるなら」
「俺は、会えないときのほうが紅のこと考えてるよ。でも、紅のことを考えるだけじゃなく、紅を感じたいから……もっと紅と会う時間を作るようにするって、約束する」
欲しかったぬくもりに包まれて、目をつぶる。
傍にいて、こうして抱き合えるだけで、十分だ。
ないものほど、欲しくなる。
だから、「ない」ことに慣れてしまえばいい。
そう、思った。
慣れることができると、そう思っていた――。