Sweetな彼、Bitterな彼女
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(蒼が引き留める可能性は……ないか)
弾む息の合間に、苦笑する。
(長くても一年。早ければ半年程度で帰って来られるのだと言えば、しかたないと言うよね? きっと)
いまでもほとんど会えずにいるのだから、大した違いはない。
(もしくは……別れようと言われるか)
小さく溜息を吐き、弾んだ息を整えてから、ドアを開ける。
「蒼、遅くなってごめん!」
「ん」
蒼は、リビングで、スケッチブックに何かを書きなぐっていた。
振り返りもしない。
当然、出迎えのキスもない。
蒼は、アイデアに夢中になっている時は、ところかまわず描き始め、納得が行くまでやめない。
同僚として、主力商品を一手に担うデザイナーの調子がいいのは、喜ばしいことだ。
スーツを脱いでジーンズとカットソーに着替え、一服する間もなく、キッチンに立つ。
(そういえば、最後に蒼とキスしたのっていつだっけ……?)
白菜を洗いながら、首を傾げる。
先月は、三橋係長の異動で、わたしが忙しかった。
蒼の部屋に来たのは数回。蒼の友人知人がいたため、イチャつく暇もなかったし、いつ終わるとも知れない宴会に付き合う元気もなく、滞在したのはほんの一、二時間だ。
年末年始は、蒼が家族に会うために渡英。そもそも会えなかった。
十二月は決算期。わたしはほぼ毎日残業で、蒼も各種の忘年会やクリスマスパーティーなどに忙しく、二人きりでゆっくり過ごすことはできなかった。
十一月は、ベテランデザイナーが外資系のライバル会社に引き抜かれるという事態が起きた。
彼の仕事を引き継ぐことになった蒼は、文字通り、寝食を忘れる勢いで、連日連夜大量のデザイン画を描いていた。
記憶を辿って愕然とする。
(三か月……何もない)
会えば必ずそういう行為をしなければ、気が済まないというわけではないけれど……。
(蒼は、忙しいから、そういう気持ちにならない? それとも……わたしに魅力がない?)
残業終わりの外食は、確実に脂肪へ変換され、見えない場所で増大している。
肌の手入れも、怠りがちだ。
手を抜いていたことは、否めない。
明日にでも、エステの予約をしようと考えていたところ、いきなり現実へ引き戻された。
「紅。二月末に、ここ引き払うから」
「え?」
「新しい家に、引っ越す」