Sweetな彼、Bitterな彼女

すぐにタクシーを捕まえようと思ったが、痛む足を引きずって歩いているうちに駅に着いてしまい、結局電車に乗り込んだ。

金曜の夜ということもあり、こんな時間でも車内はほろ酔い加減の人たちで混雑している。

つり革にぶら下がり、「はぁ」と溜息を吐く。

いまのような状況で、蒼と付き合い続けられるとは思えない。


(でも、どうやって……終わりにすればいいんだろう?)


ある日を境に、無理やり蒼への想いを断ち切るのは、肉体的にも精神的にもキツイと想像がつく。
元カレの浮気現場に遭遇し、その場できっぱり別れたようにはいかないだろう。


『それなら、自然消滅……狙えばいいんじゃない?』


ふいに、耳に飛び込んで来た声に、心臓が大きく跳ねた。


『だって、女がいるんでしょ? 放っておけば、いいじゃない。下手に別れ話すると、こじれるかもしれないし。むこうだって、わざわざ繋ぎ止めようとはしないわよ』


目の前に座っているOLらしき二人組の一方が、付き合っている浮気者の彼氏と別れたいようだ。


『でも、はっきりさせないのもどうかと思って……』

『別れたいの? 別れたくないの? どっちなのよ』

『別れなきゃと思うけど……まだ、好きなんだもん』

『だったら、自分で自分にトドメ刺さなくてもいいと思うけど。悲惨な終わり方をしたら、余計に引きずるし。さっさと次へ行くにも、気力体力精神力は温存しておかないと!』

『それは、そのとおりだけど……』

『終わった恋より、明日の合コンが大事。商社のエリートなんだから! 白黒つけずに、灰色のままにしておくのもアリでしょ』


(自然消滅、か……)


車窓に映る自分の姿を見つめながら、静かな恋の終わりというのもアリかもしれないと思った。

モヤモヤした曖昧な気持ちのまま別れるのは、わたしの性分ではないけれど。

大人になればなるほど、傷の治りは遅くなる。
傷口を抉るようなことはしないほうがいいのかもしれない。

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