Sweetな彼、Bitterな彼女
「どうしても結婚したいわけじゃないし。どうでもいい付き合いに時間を割くくらいなら、仕事してたほうがマシよ」
付き合った先に、「結婚」を思い描くことはしない。
実現しないかもしれない未来のために、いらぬ感情を抱きたくない。
束縛、独占欲、嫉妬――。
好きという気持ちを憎しみに変えるかもしれないものは、いらない。
「その調子で、仕事に人生捧げるつもり?」
「男より残業を優先するのは、当たり前でしょ? 働けるうちに、たっぷり稼いでおきたいし。いざとなった時、頼りにできるのは自分と自分が稼いだお金だけ。仕事が一番大事」
「……夢がなさすぎるわよ、紅」
「叶わない夢は、見るだけ無駄。守ってあげたくなるようなか弱い女でもないし、かといって、一生手放したくないと思わせるようなイイ女でもないことは、自覚してる。いつか王子様が現れるなんて、思っていない」
相手との距離を測るためにも、正しい自己評価は必須だ。
最初から、手が届かないとわかっているものを望まないためにも。
「紅には、紅のいいところがあるし、それを魅力的だと思う人だっているはずよ?」
「いるかもしれないけれど、それが恋愛関係に発展するかどうかは別の話でしょ」
「もっと、心の赴くままに生きてみたら?」
「心の赴くままに生きて、満足するのは自分だけ。たいてい、周りは大迷惑」
「なんでそう頑ななのよ?」
(実際に、そういう人を知っているからなんだけど)
会社の同期に、社員食堂で話すようなことでもない。
「そういう性分なの。それにしても……これ、甘すぎるんだけどっ!」
舌に残る甘ったるい味は、苦いコーヒーを飲んでもまだ残る。
ジュエリーボックスのような箱は、引き出しが二段。
それぞれ八個ずつ、見目麗しいチョコレートが収められていた。
つまり、計十六個。
なぜに、こんな大物を買ってしまったのか。
血迷った自分を激しく後悔していると、頭上から聞き覚えのない声が降って来た。
「チョコレート、嫌いなの?」
「え?」