Sweetな彼、Bitterな彼女

いつになく弱々しい声で呟く雪柳課長は、髪は乱れているし、ワイシャツもしわくちゃで、ネクタイもしていない。自宅でくつろいでいたところをそのままに、飛び出して来たのだろう。

大事に思ってくれているのだと感じた。


「……ありがとうございます。でも、課長のお気持ちを受け入れることはできません」


要領が悪いと言われても、頑なだと言われても、譲れない一線がある。


「黒田……白崎と何かあったんだろう? 辛いときに、縋れるものを求めるのは自然なことだ。都合のいい男として、利用してくれてかまわない。ひとりで溜め込まずに、吐き出せ」


優しい言葉に思わず泣きそうになったが、雪柳課長の気持ちを知ってしまった以上、甘えられないし、甘えたくなかった。


「今夜、蒼のことで『何か』があったことは否定しませんが、喘息はあくまでも煙草のせいです。それに……いま、課長の手を取ったら、わたしは自分で自分を許せなくなる。そうなったら……課長のことも嫌いになってしまうかもしれません」


雪柳課長は、呆れ顔で大きな溜息を吐き、有無を言わせぬ口調でわたしに命じた。


「わかったよ。そこまで言うなら、しばらくの間は、いままでどおりに上司と部下でいてやる。だが……部下の面倒を見るのは、上司の役目だ。明日の予定はすべてキャンセル。向こうへ行くのは、風邪が完全に治って、喘息について詳しい検査や診察を受けてからだ。いいな?」

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