Sweetな彼、Bitterな彼女

試合終了を待たずに、蒼は一方的に電話を切った。

聞こえないとわかっていたけれど、ずっと言えなかった言葉を呟く。




「さよなら、蒼」



機械音しかしなくなった電話を切り、ぬるくなったビールを飲み干して、店を出た。

外の日差しは温かく、平和そのものだった。

行く当てもなく通りを歩き続け、緑の木々が生い茂る公園で、ベンチに腰を下ろした。

家族連れ。老夫婦。外国人観光客。ジャージ姿の中学生。恋人同士。
いつもは、サラリーマンの憩いの場となっている公園は、連休を楽しむ人たちでにぎわっている。

ぼんやりと目の前を通り過ぎていく人たちを見るともなしに眺めていたわたしは、突然呼びかけられて飛び上がった。


「紅さんっ!」


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