普通の幸せ
 玄関を開けて、中に入った。
 リビングからパタパタと出てくる音がする。

「おかえりなさい」
 彼女は、特に笑顔という訳じゃなくて、普通の顔だ。自分も普通の顔で答える。
「ただいま」
 特に話すことはない。彼女も、顔を見せただけで、俺のカバンを持ってくれたりする訳じゃない。出迎えてくれただけだ。

 でも、なんだかホッとする。

「雨降ってなかった?」
「いや、降ってないよ」
「そう?なんか、夕方から降りそうだったんだよね〜」
「そうか?」
 彼女はキッチンに行き、途中だった料理を始めた。

 一緒に住むことにした時に、家事はできる方がやると決めた。
 でも最近は自分が忙しいことが多くて、彼女がほとんどをしてくれている。

「先にお風呂入ったら?どうぞ」
「うん、じゃあそうする」
 スーツをハンガーにかけて、風呂場に行く。

 洗濯機の上に、俺の下着とパジャマが置いてあった。

 彼女が、自分を気遣ってくれている。
 それだけで、嬉しくなる。
 
 ニヤついた顔が鏡に写った。
 この顔は、恥ずかしくて他人には見せられないと思った。


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