普通の幸せ
風呂に浸かっていると、彼女がドアの前に来た。
「裕さん」
「んー?」
「あのね、さっきから、電話が結構な頻度で鳴ってて。一応知らせておこうと思って」
……多分、会社だ。何かトラブルでもあったか。
「わかった。電話はほっといていいから」
「はーい」
彼女は戻っていった。
面倒にならなきゃいいな、と思いながら、風呂から出る。
リビングで、電話を確認する。
着信10件。全部会社からだった。
キッチンから彼女の声が飛んでくる。
「やっぱり会社?」
「うん」
キッチンからは、いい匂いがしてきていた。この匂いは、多分汁物だ。
嫌な予感を感じつつ、会社に電話をかける。
「システム課の石川で……」
『あー石川さん!助けてください!』
名乗った途端に叫ばれた。
同じ部署の後輩だった。どうやらヤツがなにかをやらかしたらしい。
状況を聞きながら、出かける準備を始める。会社に戻らないとダメな感じだった。
自分が行くまでにやっておいてほしいことを伝えて、電話を切った。