爽やか王子の裏側は


放課後


いつもより重い足取りで旧校舎に向かう


ピアノを弾こう


弾かせてくれぃぃ


誰もいない音楽室の雰囲気


最近はここも賑やかになってきたな



ピン


一番上の音を鳴らす


そこまで大きな音じゃないのに音楽室一角に響き渡る高い音



今日は何を弾こうかな


椅子に浅く腰掛け、邪魔な髪を耳にかける



Eの音を響かせる


そのまま半音下げて繰り返しの特徴的な音楽



『エリーゼのために』



オクターブに跳躍する動きの多い曲


難易度はそんなに高くないけど耳に残るあの曲


右指が細かく動き出す


左手が支えるように踊りだす


いつ聴いても綺麗な曲



長調のように明るくなるところ、元のメロディに戻り、激しい左手の動きとともにクライマックスに向かう


最後の響きはシンプル


でも部屋全体に、旧校舎全体に響き渡るAの音


その音を止めるように手を鍵盤から離す


ピタ


緊張の糸が切れる



「はぁ」


息が漏れる


ピアノって本当に不思議だな


決められた並びをしている音を様々な方法で奏でるだけでこんなにも美しい響きに変わる


音が音楽に変わる



ピアノに惚れてるんだもの


この時間は人生で一番私の好きな時間なのかもしれない



そして、もしここに

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