爽やか王子の裏側は



最後の音が響き終えるころ、目を瞑っていた園川くんがスッと目を開く


あの日も、園川くんは入り口で座り込んで目を瞑っていた


衝撃的だったこと、すごく覚えてる



「西村のピアノ、好きだな」


俺の癒しだって言ってくれたの…すっごい嬉しかった


「…私も、園川くんに聴いてもらうの好きだよ」



ふっと優しく微笑んだ園川くんは頬杖をついていた手を下ろし、私を見た


「放課後のピアニスト」


それ…お母さんも言ってた気がする



「そんな素敵なものじゃないよ」


「俺にとってはとてつもなく素敵なものだよ」


……




「園川くん」


「ん?」


「私を見つけてくれてありがとう」



なんでこんなこと言ったかなんてわからないけど


素敵だと言って微笑んだ彼見て、そう思ったから


あの日、この音を見つけてくれてありがとう


私にあなたの本性を見せてくれてありがとう


あの扉の向こうに座っていてくれたありがとう



「…こっちのセリフだよ」


へ?


「本当の俺を受け入れてくれてありがとう」



本当の爽やかな笑顔


私にとっての爽やかな王子様





「好きだよ」



どっちが言ったかわからなかったけど、そんなことどうでもよかった


再びなくなる距離と、園川くんの温もりを愛しいと思う冬の朝


音楽室から響く恋の音



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