ニナの白歴史

虚無

ニナがいなくなった後、抜け殻の様な日々を送った僕は高校受験にも身が入らなかった。

大学には合格したものの、一緒に通う友達もなければ受けたい授業があるわけでもない。

ただひたすら電車に揺られて学校まで行き、授業を受けてそのまま帰る。その単純作業の繰り返しだ。

何度かサークルに入って友達を作ろうとしたが、僕を受け入れてくれる居場所はどこにも見つからなかった。

僕のせいじゃない……僕が悪いんじゃない……

言い訳を重ねて、嘘を重ねて、そして日々を重ねる内に気が付けば大学三年生になっていた。

就活のシーズンになり、僕は企業の合同説明会に行った。

そこで僕は中学高校時代のクラスメート、堀川君と偶然再会した。

風の噂には聞いていたが、彼は一流大学合格し今や弁護士を目指しているらしい。

説明会に来たのは単純に興味本位だと言う。

多くの学友に囲まれている彼の姿を見て、僕は何だかいたたまれない気持ちになってその場を後にした。

次の日、学校に行っても心のモヤモヤは晴れなかった。



あの時以来――もうニナには一度も会っていない。



僕は中学から高校二年まで過ごした彼女との思い出すら神格化して、自分の心の中に閉まっていた。

もう二度と会えないならば、せめて思い出だけでも抱いていたい。

……そうだ。憂鬱になっている今こそ、このニナへの想いを絵に描き起こしてカンバスに飾ろう。

ニナがこの行為を見たらきっと愚かなことだと否定するだろう。出来上がった絵をまたあの時みたいに投げ捨てるかもしれない。

でもニナはもうこの世界のどこにもいないんだ。だったら僕が何をしようが勝手なはずだ。

僕は誰もいない薄暗い教室を見つけると、紙とペンを机に広げて一心不乱に描き始めた。

お題は、僕とニナが手を繋いで空を飛んだあの夢の世界。

時を忘れて描き続ける内に辺りは真っ暗になっていて、講堂内から聞こえてくる学生の声もほとんどなくなっていた。

完成まであと一歩だったけど仕方ない。今日は帰るか――僕が片づけをしようとしたその時、背後から話しかけてくる者がいた。



「キミはまだそんなくだらないことをしていたのカ」
< 12 / 17 >

この作品をシェア

pagetop