ニナの白歴史
その後結局、午後の授業中ニナは現れなかった。
授業が終わり、学校から歩いていくと校門に寄りかかってニナが仏頂面で待っていた。
僕は急に嬉しくなって彼女に声をかける。
「ニナ、こんなところにいたの? どうして午後は教室にいなかったの?」
「…………」
ニナはプイッと顔をそむけ、そのまま校門から外へ歩いていく。
「ニナ、待ってよ!」
僕は慌てて彼女の後を追った。
閑静な住宅街の並木道を、僕とニナはしばらくの間無言で歩き続けた。
誰かと下校するなんて小学生以来の体験だったけど、こうしてニナと歩くことは不思議と自然なことに思えた。
「で? マナとは仲良くなれた?」
不意にニナが口を開いて尋ねた。
やっぱりその話か、と思いつつ僕は答える。
「う……ごめん、約束を破って」
「どうせあの女とお喋りしてたんでしょ。想太から害虫の匂いがプンプン漂ってくるもの」
「ひ、酷いなあ……仲良く慣れたかは分からないけど色々お話はしたよ」
「どんな話をしたの?」
「うーん、何か地球と月がどうこうとか……ちょっと難しいお話」
「それを聞いて、想太はどう思ったの?」
ニナが立ち止まって、僕の方を向いた。
澄み切った青い瞳に見つめられ、少しドギマギしながらも僕は考える。
「うーん……よく分からないや」
口をついて出た言葉に、一瞬ニナは怒ると思ったけど――彼女は急にニッコリと笑みを浮かべて、僕の手を掴んだ。
「そうなんだ。それなら良かった」
「僕がニナを裏切ると思ったの?」
「人は時に迷い、戸惑い、悩む生き物。だからいじめが起こったり、戦争が起きたりするの」
ニナは少し、その青い瞳に憂いの色を浮かべた。
「想太だって人間だから、そうならないとは限らない。だから私が守ってあげなくちゃいけない。その為には、いつまでも私のお友達でいて欲しいの」
「僕が迷ったり、悩んだりしない様に?」
「そう」
ニナは木漏れ日を受けて白く光る顔に微笑みを浮かべた。
「想太は一生、何にも迷ったり悩んだりしなくていいんだよ? 何を知る必要もないし、何も分からないままでいい。私が想太の側にいる限り、ずっとずっと」
ニナと繋いだ手が、強く握り締められる。簡単にふり解こうと思えば解けるほど華奢な手だったけど、僕はとてもそんな気にはなれなかった。
何より、マナに言い放った『ニナと一緒にいたい』という言葉を裏切るわけにはいかない。
「うん、ありがとう。正直に言うとね、僕はマナのせいで少し迷っていたのかもしれない。でも、ニナにまた会えて心が晴れたよ」
「それなら良かった」
ニナが嬉しそうに言うと、彼女の胸元が明るく輝いて――そこから飛び出した小さな光が、僕の胸に吸い込まれていった。
「い、今のは何?」
「安心して。これは想太を守るお守りみたいなものだから。私がいる限りずっと続く、幸福のお守りだよ」
「……ありがとう」
そうお礼を言いつつ、僕は心の中ではそんなものは必要ないのにと思った。
だって、どんな不幸さえ寄せ付けない程にニナの笑顔は綺麗で温かいものに見えたから。
授業が終わり、学校から歩いていくと校門に寄りかかってニナが仏頂面で待っていた。
僕は急に嬉しくなって彼女に声をかける。
「ニナ、こんなところにいたの? どうして午後は教室にいなかったの?」
「…………」
ニナはプイッと顔をそむけ、そのまま校門から外へ歩いていく。
「ニナ、待ってよ!」
僕は慌てて彼女の後を追った。
閑静な住宅街の並木道を、僕とニナはしばらくの間無言で歩き続けた。
誰かと下校するなんて小学生以来の体験だったけど、こうしてニナと歩くことは不思議と自然なことに思えた。
「で? マナとは仲良くなれた?」
不意にニナが口を開いて尋ねた。
やっぱりその話か、と思いつつ僕は答える。
「う……ごめん、約束を破って」
「どうせあの女とお喋りしてたんでしょ。想太から害虫の匂いがプンプン漂ってくるもの」
「ひ、酷いなあ……仲良く慣れたかは分からないけど色々お話はしたよ」
「どんな話をしたの?」
「うーん、何か地球と月がどうこうとか……ちょっと難しいお話」
「それを聞いて、想太はどう思ったの?」
ニナが立ち止まって、僕の方を向いた。
澄み切った青い瞳に見つめられ、少しドギマギしながらも僕は考える。
「うーん……よく分からないや」
口をついて出た言葉に、一瞬ニナは怒ると思ったけど――彼女は急にニッコリと笑みを浮かべて、僕の手を掴んだ。
「そうなんだ。それなら良かった」
「僕がニナを裏切ると思ったの?」
「人は時に迷い、戸惑い、悩む生き物。だからいじめが起こったり、戦争が起きたりするの」
ニナは少し、その青い瞳に憂いの色を浮かべた。
「想太だって人間だから、そうならないとは限らない。だから私が守ってあげなくちゃいけない。その為には、いつまでも私のお友達でいて欲しいの」
「僕が迷ったり、悩んだりしない様に?」
「そう」
ニナは木漏れ日を受けて白く光る顔に微笑みを浮かべた。
「想太は一生、何にも迷ったり悩んだりしなくていいんだよ? 何を知る必要もないし、何も分からないままでいい。私が想太の側にいる限り、ずっとずっと」
ニナと繋いだ手が、強く握り締められる。簡単にふり解こうと思えば解けるほど華奢な手だったけど、僕はとてもそんな気にはなれなかった。
何より、マナに言い放った『ニナと一緒にいたい』という言葉を裏切るわけにはいかない。
「うん、ありがとう。正直に言うとね、僕はマナのせいで少し迷っていたのかもしれない。でも、ニナにまた会えて心が晴れたよ」
「それなら良かった」
ニナが嬉しそうに言うと、彼女の胸元が明るく輝いて――そこから飛び出した小さな光が、僕の胸に吸い込まれていった。
「い、今のは何?」
「安心して。これは想太を守るお守りみたいなものだから。私がいる限りずっと続く、幸福のお守りだよ」
「……ありがとう」
そうお礼を言いつつ、僕は心の中ではそんなものは必要ないのにと思った。
だって、どんな不幸さえ寄せ付けない程にニナの笑顔は綺麗で温かいものに見えたから。