年上同期の独占愛~ずっと側に
告白

それから2週間後、急な人事異動で、緒方マネージャーが他支店の営業マネージャーに着任することになり、バタバタと引継ぎが行われていた。プロジェクト半ばで人事異動があるのは非常に稀なのだが、西日本の制度改正のため、東日本本社の制度担当を経験している緒方マネージャーをどうしても、ということで急遽の異動となったらしい。後任のマネージャーも人事経験のある方が着任されるとのことで、一先ず安心だが、緒方さんがいなくなるのは、とても寂しい。
仕事もプライベートも大変にお世話になった。お世話になった恩を返せないままいなくなってしまうのは本当に残念だ。
いつかまた、どこかで一緒に仕事をする機会があったときに、成長した姿を見せるためにも頑張らないと。

休憩室にお茶を買いに行くと、緒方さんが一人でたばこを吸っていた。

「お疲れ様です。」

「お疲れ様。バタバタしててすまんな。」

「何かお手伝いできることがあればいいのですが、役立たずですみません。」

「これからプロジェクトの山場だ。益々忙しくなるのに、手伝えなくて悪いな」

「緒方さんには、本当にお世話になって・・・たくさん教えていただき勉強になりました。本当に、本当に・・・ありがとうございました。」

「野崎さんの良いところはね、感性がいいところ。それがすべて合っているとは限らないけど、感性を活かそうとするところが良いところだと思う。間違った方向に行かないようにするには、経験が必要だ。幸い、ここには優秀な先輩たちがそろってる。色々学んで野崎さんの良いところを伸ばしてほしい。
俺は、野崎さん良いと思うよ。臆せずがんばって。」

私にはもったいないはなむけの言葉をいただいた。
この時期の異動は稀だし、急な人事で迷惑かけた感が緒方さんが強くもっているため、送別会等も一切開かせてもらえない。

きちんとしたお別れができるのは、恐らく今日が最後だろう。
まだ業務時間内だというのに、涙が落ちそうだ。一生懸命涙をこらえようとしていたのに、身に余るような言葉をもらい、もう耐えられず泣いてしまう。

「ごめんごめん。野崎さん、泣かないで。こっちまで泣きそうになる。

おっ、橋本!良いところにきた。野崎さんのこと、頼むな。取り合えず、涙とめてやってくれ。」

ハンカチで涙をふきながら顔を上げると、橋本さんが困った顔をして歩いてきた。緒方さんに挨拶をしながら、私の腕を引き顔を覗き込む。

「大丈夫?ふふっ」

笑われた・・・。上司との別れが悲しくて業務時間中に泣き出すなんて呆れているのだろうが、笑わなくたっていいのに、と少し不貞腐れ気味に

「私もすぐ席に戻りますので、橋本さんも行ってください。」

「ん。じゃあ、涙が引っ込んだら一緒に戻ろう。」

緒方さんがいなくなったら途端に冷静になり、あっという間に涙は乾いた。もう大丈夫だから席に戻ろう、と橋本さんに言い歩き出した。

「お前、かわいいな」

後ろからついてくる橋本さんから言われて振り向いた。

「なあ、今日飲み行かない?」

「今日ですか?今日は・・多分内々ですけど、担当で緒方さんの送別会を軽くやると思います。」

「あ、そうなんだ。じゃあ、終わるころ迎えに行くよ。」

さらっとそういうと、私を追い越して歩き出した。あとから合流させてもらうのもいいかな、と、一人でブツブツ言いながら行ってしまいそうになるので

「あの、本当に合流しますか?」

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