年上同期の独占愛~ずっと側に
原さんの名前をまた使わせてもらってしまったが、早く一人になりたかった。
すると、会議室のドアをノックする音と一緒に、女性の声で「失礼します」と声が聞こえた。

「はい」と立ち上がりながらドアの方へ近づくと、細くドアが開いて

「橋本くん、いますか?」と同年代くらいの女性が顔をのぞかせると、橋本さんが立ち上がって入り口まで歩いて行った。

「何?」

「部長がさがしてる」

「あぁ」

イラついた様子で溜息をつきながら振り向き、

「野崎さん、また」

「お疲れ様です」

一緒に呼びに来た女性にも会釈した。

泣いていたこと、気づかれただろうか。開発部門案件で話があると言っていたが、とてもじゃないが話ができる状態ではなかった。

橋本さんが来てくれたおかげで、ずっと泣きっぱなしだったが涙が引っ込んだ。このまま終了時間まで一気に作業してしまおう。

それにしても、先ほどの橋本さんは少し怖かった。呼びに来た女性に対しても少しイラついたような口調で接していた。
元々橋本さんはクールで厳しい人だと同期の亜都子や原さんから聞いていたが、私と話すときはいつも物腰が柔らかく丁寧だ。私とは今回のプロジェクトで初めて会ったので、気を遣ってくれているのだろう。素の橋本さんを見た気がして少し引いてしまった。

定時少し前に、自席に戻る。原さんに挨拶しようとしたら 弘美が私の席まで迎えに来た。

「萌々香さん、お疲れさまです。もう出られますか?」

「あ、ちょっと待ってね。あっちで・・・」

原さんと今日の進捗の話をしようと思い、リフレッシュルームで数分待ってもらおうと思ったのだが、横から原さんが割り込んで言ってきた。

「野崎さん、お疲れ様でした。また明日。」

それでもまだモタモタしていると、吉村さんまで言ってきた。

「お疲れ様。また明日ね」

「はい。今日は・・・本当に色々すみません、ありがとうございました」

「うん。緒方マネージャーもね、野崎さんと僕のこと信頼してくれてるから。大丈夫だから」

どうしてこんなに優しくてしてくれるんだろう。原さんには一生頭あがらないな。

お先に失礼します、と挨拶して弘美と一緒に席を離れた。

私がロッカー行ってくるね、と弘美に声をかけると、うん、と頷き、原さんと吉村さんと何か話をしているのが目に入ったが、すぐに私の後を追ってきた。

エントランスを出るとすぐに弘美に今日のお礼を言う。

「わざわざ来てくれてありがとね。昨日も夜遅くに電話までもらって・・ごめんね」

「全然大丈夫です。っていうか、大丈夫ですか?もう、びっくりしすぎて・・ゆっくり話聞かせてください」

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