裏切り
店の外の植え込みに
進藤さんは腰かけていた。
「すみません。」
と、言うと
進藤さんは、頭をかきながら
立ち上がった。
その仕草がかわいくて
思わず笑ってしまった。
「俺、あれからあなたを
一度みたのです。」
「ん?あっ、もしかして
哲也叔父さんのとこ?」
「哲也叔父さん?」
「ああっ、ごめんなさい。
奥菜法律事務所?」
「そうです。もしかして
奥菜先生の親戚?」
「姪です。」
「そうでしたか?奥菜先生には、
お世話になったのです。
とても良い方ですね。」
「はい。熊みたいですが
優しい叔父ですよ。
母の弟なんです。
ん?進藤さんは、なぜ、叔父のとこに?」
と、言うと彼は、また、頭をかきながら
「実は、俺も離婚したのです。」
「ええっ」
と、びっくりしていると
「その驚きは、
俺が、結婚していたから?」
「えっ、違います。
あのマンションに住んでいた住人が
一緒の時期に離婚なんて
それも同じ弁護士で
と、思ったからです。」
「あはは、そうですね。」
と、進藤さんが笑いながら言うから
私もクスクスっ、笑ってしまったが
「笑う所ではないけど。」
と、言う私に
「ご主人、いや、元ご主人は
まだ、未練ありそうですね。」
「う~ん、どうかな?
彼の浮気で離婚したのですよ。
私に飽きたか?
私より好きな人が出来たから
でしょ?
未練って、おかしくないですか?」
と、言うと
進藤さんは、びっくりした顔をして
「あなたのような方を
嫁にして、浮気ですか?」
と、言われて
私が真っ赤になると
「あっ、いやっ、すみません。
軽率な事を言って。」
と、言われて
頭を横に振ると
「実は、俺も浮気されて
離婚したのです。」
「えっ、進藤さんも?」
「はい。まぁ、俺にも
責任があると思います。」
「なぜ?」
「ご覧の通り、俺は表情が
乏しいのです。
妻に押しきられた形で
結婚したのですが、
俺なりに大事に
してきたつもりなんですが
それが、わかって
もらえなかったのか
若い男と。」
と、言うが
進藤さん·····が····
表情が···乏しい?
さっきから
困った顔
照れた顔
笑顔
それに奥さんの話しをした時の
悲しそうな顔
私には、表情が乏しいとは
思えない。
そんなことを考えていたのを
返事に困っていると
思ったのか、進藤さんが
「あっ、すみません。
こんな話をして。」
と、言うから
「えっ、違う、違います。
そんなことを思っていません。
ただ····」
「ただ?」
「進藤さんが、表情が乏しい
とか、私は思えなくて。」
と、言うとびっくりした顔の
進藤さんに
「だって、さっきから
いろんな表情をされているから。」
「ええっ?」
「ん?」
「そんな風に言われたの、はじめてだ。」
「いまの短い時間でも
困った顔、照れた顔、笑顔
そして、悲しい顔しましたよ。
表情が乏しいなんて
ないですよ。」
と、言うと
進藤さんは、一瞬目を開いたが
その後 嬉しそうに笑った。
その顔を見て
私も笑顔になった。
それから、二人で
二人の仕事の話をしながら
歩いて·····
なぜだか······連絡先を交換してから
帰路についた。