裏切り
夏海side
「奏多っ、ママ帰ってくるよ。」
「ママっ!!!!」
私に向かって走ってくる
奏多を抱き締めて
「奏多、良い子にしてた?
お祖母ちゃんを困らせてない?」
と、訊ねる私に母が
「良い子だったよね。」
と、言うと
「ねぇ」
と、言う奏多。
出産に少し苦労したが
無事に産まれてくれた。
母は、泣きながら
喜んでくれた。
奏多が産まれて一年過ぎた時に
私は前の職場の店長から
同系列のこちらの店舗を
紹介されて、仕事に復帰した。
店長は、男性で独身の方だった。
私は、大典で懲りていたから
恋愛も結婚も、まったく考えて
いなかった。
だが、この一年
彼・鏡 陽介(かがみ ようすけ)さん
43歳。
彼は、一度結婚したが半年で離婚をした。
それから、ずっと一人だったらしい
もう一生独身で一生を終えると
思っていた俺の前に
安部さんが現れたんだ
もう一度だけ恋をしたい
この人と生きて行きたいと
思ってしまった
と、言われた。
結婚した後に
高熱をだして子供が望めなくなり
奥さんに申し訳なくて
離婚したらしい。
奥さんは、
「それでも良い」
と、言ったらしいが
自分が嫌だった。
のだと話してくれた。
「それで良いと簡単に
思うほどだったのだと
自分でもびっくりしたんだ。」
と話しながら
「だけど、ごめん
夏海さんだけは、諦めきれないんだ
子供できない俺では
ダメかな?ダメだよね。」
と、悲しそうに言われてしまい
私は、今までの経緯を
正直に話した。
きっと、これで引くだろうと
だが·····彼は·····
「奏多の父親にならせてくれないか」
と、言った。
仕事も一生懸命で
顧客にも従業員にも優しくて
人気のある鏡さんに対して
好感は持っていた。
でも、私一人では決める事は
できない
奏多が嫌なら
この話しは終わり。
母は、
「会わせてみたら」
と言ってくれて
今日仕事帰りに一緒に
奏多に会いにきたのだ。
奏多を抱き締めながら
話していると
奏多が、私の後ろにいる人を見て
私をまた、見て
泣くかな?と思った。
奏多の近くには男性がいない
保育園の先生も
母の職場も。
だが·····
奏多は、彼、陽介さんをじっと見て
「パ···パ·····?」
と、言った。
陽介さんは、ハッとした顔をしたが
「そうだよ。おいで。」
と、両手をだした。
あっ、ダメ。
それは、きっと無理。
と、焦る私から
する~っと
奏多がいなくなった。
ハッと振り向くと
奏多は、陽介さんに抱かれて
陽介さんの顔を小さな両手で
触っていた。
そんな陽介さんの顔には
涙がいくつも落ちていた。
奏多は、
「パパ、いたい?」
と、困った顔をしていた。
そんな私ももらい泣き
すると、母が呆れながら
「奏多、パパは嬉しいって
奏多に会えて、嬉しいって。」
と、言うと
「ほんと?」
と、陽介さんと私を見るから
私が頷いてみせる
奏多は、嬉しそうに
陽介さんの頭をなでなで
していた。
そんな奏多を
私と母は、笑いあって
陽介さんも泣き笑いをしながら
母の家に帰る。
奏多は、陽介さんから離れず
陽介さんの腕の中で眠ってしまった。