裏切り

テーブルをコンコンとたたかれ
ウェイターが声をかけたのかと
すみません、と顔をあげる····と。

夏海の夫だと言っていた
男性だった。

「あっ、あの·····」
と、俺が言うと
「鏡と申します。
佳山さんですね。」
「なぜ?」
「一度、夏海に写真を見せて
貰いました。
今は、消去していますが。
私は、仕事柄、人の顔を覚える事が
得意でして。」
と、言う鏡さんに
俺は、なにも言えず黙って
鏡さんをみていると
「パパ、このおじちゃんだれ?」
と、言う声が聞こえて
はっとして見ると
夏海の子供がいた。
「ん?このおじちゃんは、
パパのお友達だよ。
奏多、ご挨拶は?」
と、男性が言うと
「かがみ、かなたです。」
と、頭をペコリとさげた。

俺は、
「かやま、だいすけです。」
と、言うと
「おじちゃん、いたいの?」
と、涙を流す俺を心配して
頭を撫でてくれる奏多。
「あっ··あり··がとう···
奏多君は···やさ···しいね」
と、言うと
エヘヘと奏多は、鏡さんを見上げる。
鏡さんは、優しい顔で
奏多の頭を撫でながら
「私の命に変えても
二人を幸せにします。」
と、頭を下げた。

俺も
「よろ、宜しくお願い致します。」
と、頭を深く下げた。

奏多は、バイバイと
手をふりながら
店を出て行った。

店の外で
夏海は鏡さんに抱き締められていた
奏多ごと·····

千亜季と千亜季の旦那さんである
あの時の彼も男の子を抱いて
いない方の手で千亜季を
抱き締めていた。

二人とも
俺みたいなやつじゃなくて
素晴らしい伴侶に巡り会えたんだと
情けない自分をさておいて
良かったと心から思った。

自分も、二人に負けないように
奏多に恥じる事のないように
生きて行こうと
心に誓った。
< 93 / 96 >

この作品をシェア

pagetop