"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
大学2年、春。

引越しです。

前に住んでいたアパートは駅近の十畳のワンルーム。風呂、トイレ別。台所は狭いけどほとんど使ったことがなかったし、ただの通路扱いだった。


帰ってきて風呂入って寝るだけなら十分だったし、何より家賃が安かった。なんと二万円。

大学から徒歩五分以内。駅から十分圏内。

授業が始まるギリギリまで寝られるし、バイトもサークルも最後まで居られるし最高!


ただ、残念なことにボロっちかった。


時々水になるシャワー。今にも外れそうなベランダの柵。隣の音が丸聞こえの薄い壁。時々ギシギシ鳴る床。


いつかはガタがきて取り壊されるんだろうな、とは思ってたよ。あー、やべーなって思ってた。


まぁ、俺が卒業するまではいけると思ってたんだよ。


ところが、大学二年生になった春のこと。まさか床が抜けて人の下半身が下の階に突っ込むとか思わないよな。


ちなみに下の階に体半分突き抜けたのは、俺。


その一件で、アパートの顕著な老朽化を真摯に受け止めた管理人は取り壊しを決定した。
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