"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
大学2年、冬。

俺は後に知ることになる。



文化祭が終わり、気づけば気温は一気に下がって、コート無しでは外に出られないような寒さになっていた。

しかも、駅の目の前は海。冷えた海風に晒されるので、駅を利用する日はいつも憂鬱だ。

最近は空いてる日に全てバイトを入れたせいで終電で帰ることが多くなっていることもあって余計に。


「来年の夏までこれが続くのか」

言って悲しくなる。あと何ヶ月あるんだ。

それに、来年の夏は大学三年生になっている。残り一年半のために新しい部屋を探そうというのも馬鹿らしい気がしてならない。

ほんの少し前に、不純な動機で決めたことをこんなに後悔するとは思わなかった。

はぁ、と吐いた白いため息は空に消える。


後悔しているのに、大根の世話はやめていない。

想いは諦めなくてはならなかったが、琴音の厚意で植えた大根を枯らせていい理由にはならなかった。

「寒っ」

土が凍っていて、踏むたびにザクザクと音を立てる。

そうだ。冬になって楽になったことが一つだけ。

雑草が生えにくくなった。生えても少しだけなので草抜きが夏に比べて楽だ。

雑草すら負ける寒さの中、元気に育っている大根。

「でっかくなったなー」

もう収穫してもいいのでは、というほど大きくなった。どのタイミングで抜けばいいのかが分からず、今も育てている。

種から育ててきたせいか、愛着のようなものが湧いてきたのもある。

だが、折角ここまで育ったのだ。
食べなくてはもったいない。


もう抜いちゃうか。


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