"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「私もお邪魔しちゃってごめんね」
「千葉崎と一緒にいたんだろ?急に呼んだ俺が悪いんだ。こっちこそごめんな」
原田とは大学もサークルも違う。
千葉崎のバイトが休みの日くらいしか会うことができないのに、思いつきで呼んでカップルの邪魔をしてしまった俺に非がある。
それなのに、原田は謙虚というか心が広い。
「ううん。栄太とは会おうと思えばいつでも会えるから。町田君と酒井さんにも久々に会いたかったしね。何か手伝うことはある?」
「いや、原田さんは座っててよ。あいつらこき使うから」
居間に入るや自分のポジションにしつつある位置に腰を下ろそうとする千葉崎と、さっきからしょうもない言い合いに全部乗っかってしまっている酒井を指差す。
二人も客人には違いないが、やかましいので手伝わせよう。原田と違って雑に扱おうが構わない。
「え〜。あとは野菜切るだけでしょ?適任がここにいるじゃ〜ん!ねっ?栄養学部所属の酒井さん?」
「そんなの栄養学部じゃなくてもできるっての!」
「いやいや、常日頃実習で包丁触ってる酒井さんと実家暮らしで料理なんてちーっともしない俺とじゃ雲泥の差だよ〜。俺は莉乃とここから応援してるからさ!」
原田を自分の方へ抱き寄せ、俺と酒井にシッシッとでも言うように手を払ってキッチンへ追いやって来る。
あいつには、絶対に肉を食わせない。
「悠介、ピーラーは?」
「ここ」
引き出しを開け、ピーラーを手渡す。
すると、シャッシャと皮が刃物によって剥がれていく。
俺が皮を剥くのとは全くスピードが違って、思わず「おお」と、感嘆の声を漏らした。