"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「さすが栄養学部」
俺の言葉に酒井は一瞬、動きを止め、すぐに音を奏るようにタタタタと包丁を動かした。
「あのさ、勘違いしてるみたいだから言っておくけど栄養学部だからって料理人になるわけじゃないから!栄養について学ぶ学部だから!ただ実習で料理する機会があるからって押し付けて」
キッ!と居間から台所をニマニマと見つめる千葉崎を睨みつける酒井。
だが、千葉崎には効果なしだ。
「いい花嫁修行だろ〜?」
「黙れ!!」
「おい、手、気を付けろよ」
目を離す酒井に俺がハラハラしてしまうが、彼女は怪我なく野菜を切り終えた。
器用だなぁと、感心している間に豆腐や肉もさっさと切ってしまう手際の良さ。
俺は千葉崎の花嫁修行という言葉を思い出した。
「いい嫁になりそうだな」
急に止まった包丁。
静まる居間。
なんだ?変なこと言ったか?
さっきの発言がスベッたのか不安になって顔を上げる。酒井は下を向いたまま固まっていた。
その顔はリンゴのように赤くて、俺にも移った。