"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

「やるね〜。ゆ〜君。女の子にいいお嫁さんになれるって最高の褒め言葉じゃん」

「お前が先にっ!」

いや、何を言ってもいじられる。

俺は恥ずかしさを誤魔化すように千葉崎から顔を逸らした。

まさか何も考えずに言った言葉にこんな反応があるだなんて思わなかった。まして、相手は酒井。

高校からの付き合いで、こんなにも照れた姿は見たことがない。



……あぁ、でも、文化祭の時も赤かったっけ。

あの時は暑いからって言っていたけど、実は照れ隠しだったのかも。

切るのを再開した酒井だったが動きは鈍かった。
俺は今度は包丁じゃなくて酒井の顔を見る。

文化祭の時にしていたオシャレな格好も化粧だってしていない。

けれど、珍しく照れる酒井を可愛いと思った。

女子って不思議だ。
努力の数だけ可愛くなるし、普段見せない姿を見せても可愛いと思わせるんだから。


「じろじろ見ないでくれる、変態」


確かにじろじろ見ていた俺が悪い。

だが、前言撤回。

お前はなんて可愛くないんだ。
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