"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
結局、何もしなかった千葉崎は肉もしっかり食べたので洗い物を手伝わせることにした。
女子二人はテレビを観ながら談笑している。
「ゆ〜君さ、あれから相沢さんとはどうなの?」
水の音にかき消されるほど千葉崎の声は小さかったが俺は確認のため居間を見る。
テレビに夢中だった。
相沢さんのことを知らない二人に聞かれたところで内容がバレるわけでもない。
やましいことをしたわけでもない。
ただ結果として、決して好きになっちゃいけない人を好きになったことは後ろめたさを感じる。
「どうもしねぇ。バイトばっかで会うこともなかったし、これからもそうするつもり」
「それじゃあすぐ体壊しちゃうじゃん。諦め切れるまで無理するつもり〜?」
「まだ出会って半年も経たない浅い気持ちを諦める方が体を壊すより早いだろ」
バイト三昧でも大学やサークルに影響はない。
この一ヶ月、しんどいとは思っても風邪だって引いていない。
これをもう少し続ければ良いだけだ。
そんなことを考えていた。
「一ヶ月経つのに?」と、千葉崎に言われるまでは。
皿を洗う手がピタリと止まる。
千葉崎は変わらずキュッ、キュッと皿を拭きながら「文化祭から一ヶ月経っても吹っ切れていない思いが果たして浅いのかな?」さらに切り込んだ。
何も言えずに皿洗いを再開すると、千葉崎がふ、と小さく笑った気がした。
「俺はそんな簡単に諦められなかったけど、ゆ〜君はどうなんだろうね」
どういうことだと思って振り返って見れば、千葉崎は居間を悲しげに見つめていた。
今には彼女の原田がいる。
原田となんかあったのか?
そんな一言が憚られて、俺は「さぁな」とだけ答えた。