"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
言いにくそうに口籠った酒井は首を横に振り、「何でもない」という。
さすがに何でもないように見えず「気になるだろ」と、続きを促す。
しばらく悩んだ酒井は渋々といった感じで話しだした。
「あんたたちが二人で食器を洗ってる時にさ、前に莉乃ちゃんに助けられたことがあって、それは省略するけど、感謝したいことがあったんだよね」
酒井と原田に千葉崎なしで関わることってあるのか。
意外な組み合わせに驚きつつ、酒井が言葉を濁したのでそこは深く聞かずに続きを待った。
「それで、それを伝えたら、なんか、何だろう。一瞬だけ莉乃ちゃんの様子がおかしかったっていうか」
「原田が?」
「……うん。無表情っていうか……怒ったみたいな。理由はわからないだよね。その後は全然普通だったし」
「酒井は原田に感謝してるのに、原田は怒るってわけわかんねぇな。怒ってはないんじゃないか?」
酒井は俺や千葉崎のように気心知れたやつならともかく、原田のような面識の少ない奴に失礼なことやきついことはいわない。
俺が皿洗いをしている最中も楽しそうだったし、その後もそうだった。
だから怒ったわけではないのかも知れない。
「多分、ね。そうだといいんだけど。……とにかく、私も千葉崎と莉乃ちゃんの二人きりにさせてあげたいと思って」
そこで俺は千葉崎が出てきたのに違和感があったが、彼氏として原田から聞き出せることがあるのかもしれないと、「なるほどな」と、曖昧な癖に頷いた。