"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
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悠介が家に着いてしまうまでに送りたい。
改札を抜け、足早にホームを目指した。
そこになぜかもういないはずの人がいた。
蛍光灯の光に反射し、潮風に揺れる金の髪。
前傾姿勢でベンチに座っていて、顔はよく見えないけれど、特徴的な髪も今日着ていた服も千葉崎のものだ。
ーーー彼女と一緒に帰ったんじゃなかったの?
普段なら無視をしていただろう。
けれど、今日だけは見捨ててはならないような気がして、絵里は千葉崎の前に立った。
ベンチはサビだらけで、その上に座れば服に着くことなんて容易に想像ができる。
彼がしそうにないことをしている。
「なんかあったの?」
「んー、まぁね」
千葉崎が顔を上げへらっと笑う。
鼻も耳も真っ赤に染まり、よく見れば震えている。
十二月の寒空の下、それも海が近い場所にいて体が冷えないはずが無かった。
絵里は思わず、千葉崎の頬を手で包んだ。
氷に触れたように冷たい。
「馬鹿じゃないの!!」
千葉崎はびっくりしたようで、ポカンとした。
カイロか何かあったっけ?
絵里は鞄の中を探るため、頬から手を離そうとすると。
絵里の手に冷えた大きな手が重ねられた。
あまりの冷たさに払い除けたかったが、思っていたよりも力が強くてできない。
「あったけー」
「私は冷たいんだけど」
嫌味を込めて言う。
千葉崎は「悪い」とだけ言った。