"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「ねぇ」

「なに?」

「莉乃ちゃんに文化祭の時はありがとうって言ったら、様子がおかしかったんだけど。あんた、莉乃ちゃんが追いかけろって言ったから来たんだよね?」

絵里の問いかけに千葉崎は答えない。

莉乃の反応からなんとなく分かっていたことだが、千葉崎は嘘をついていた。

それが絵里のための嘘だと言うことは分かる。

文化祭で悠介の好きな人を知った日、絵里は酷いショックを受けていた。

自分でも気付かぬうちに涙も流していて、千葉崎が来なければ落ち着かなかったと思う。

おちゃらけた態度ばかりだったけれど、あの日の彼は絵里を慰めようとしていたんだと後になって気づいた。

友人が泣いている姿を放っておけない。

でも彼女の莉乃を置いてまで追いかける友人が女の子だったら、彼女を不安にさせてしまうだろう。

きっと、千葉崎は莉乃を不安にさせないために嘘をつき、絵里のためにも嘘をついた。

いつかはバレるものだった。
そこにやましいこともない。

けれど彼は人のために嘘をついていた。


「私が言わなきゃ、莉乃ちゃんと喧嘩しなかったってこと?」

「それは違う。酒井はなんも悪くないよ。莉乃とも喧嘩はしてない。ただ……時々疲れちゃうんだよな」




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