"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「そんなの、私が知るわけない」

「だよな〜」

もう絵里は引き剥がそうとしていないのに、千葉崎の腕に込める力が強くなった。

絵里は手持ち無沙汰な手で千葉崎の頭に触れてみた。
髪もやはり冷たかった。

……この髪、何回ブリーチしたんだろう。

ここまで綺麗に金に染めるのにブリーチ一回では済んでいないはずだ。けれど千葉崎の髪はサラサラしていて痛んでいるようには思えなかった。

思っていたよりも触り心地が良くて、絵里は髪をすくように手を動かした。

それはともすれば、慰める気持ちもあったのかもしれない。


最初はびくっと震えた千葉崎も今では大人しくされるがままだ。


絵里には千葉崎と莉乃の間に何が起きたかは分からない。千葉崎の嘘が原因にしてはもっと根深い何かがあるような気がする。

喧嘩はしてないという割に、疲れると愚痴り、こんなに弱り切っている千葉崎と本来なら恋人と過ごす日のはずなのに用事があると先に帰った莉乃。

どこかですれ違っているのか、溝ができているのか。

それがあの文化祭の日が関わっているというなら絵里だって無関係じゃない。


あぁ、そういえば。
絵里は文化祭の日に千葉崎と交わした妙な約束を思い出した。

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