"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
居間に戻ってみれば食卓に一人分の朝食が用意されていた。
淹れたての紅茶とヨーグルト。
まだ何も載っていない白い皿。
チン、と台所からトーストの焼ける音がして自室から大洋が戻って来た。
目玉焼きを載せたトーストが皿の上に置かれる。
紅茶はミルクが入っていて、目玉焼きは半熟、ヨーグルトは果実入り。
どれも琴音好みのもの。
彼女のための朝食だった。
食事が終われば、濡れたままだった髪を大洋が乾かしてくれた。
自分でする以上に丁寧で、琴音が普段つけている花の匂いのするヘアオイルまで塗り込んでくれる。
彼は時々、琴音をとても甘やかすことがある。
それは突発的で、特別な日でも何でもないありふれた日にまるで恋人を愛しむように琴音をベタベタに甘やかす。
去年の誕生日もそうだった。
もしや、と思っていれば今年もそうらしい。
琴音はこの甘くてくすぐったい時間が嬉しくて仕方がなかった。