"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

「それで、今日はどうしたいんだ?」

去年は予め、どこへ行きたい、あれがしたいなど要望を出していたけれど、今この時まで何一つ大洋に伝えていなかった。

大洋は琴音が何を望んでも良いように車の手配は済ませているし、もし遠くへ行きたいと言っても行けるように飛行機の手配もしている。

余程の要求でないなら大抵は叶えられる筈だ。

琴音も昨日寝るまでは行きたい場所があった。
けれど、朝起きて気が変わった。


「この家でまったり過ごしたい」

「……それ、いつも通りだろ。いいのか?」


そんなのでいいのか、と。
琴音は笑って頷いた。


「町田くんに手伝ってもらったのにね。今日は外食しないで、家で食べたいって思っちゃった。だから、買い物行って、ついでにちょっと海辺を散歩して、あとはずっとこの家でのんびりしたい」

「………分かった」

「ごめんね、仕事早く終わらせてくれたのにね」

「年末まで仕事したくなかったからさっさと終わらせただけだ」


嘘だ。この日だけは一切の仕事が入らないようにしていたのを琴音は知っている。

それなのに、どれだけ忙しくても夜は帰ってきてくれていたので相当無理をした筈だ。

今朝まで仕事をするつもりは大洋には毛頭なかったけれど、どうしても間に合わず夜通しやっていたのだろう。

目の下にクマができていた。


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