"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
琴音と大洋は一緒に住むに当たってある約束をし、そこにはいくつかの条件があった。
条件の一つに期限がある。
彼は三十一歳の彼女の誕生日が終わるまでは一緒にいてくれるつもりらしいが、本当の約束の期限は琴音が三十歳を終えるまで。
つまり、十二月三十日が期限。
あと一年と大洋は言ったが、実質的には一年もない。
約二年、一緒に過ごしてもどうにもならなかったのに、あと一年もしない内に約束の期限がきてしまう。
去年はまだ大丈夫と思えたのに、今年はそう思えない。それだけ切羽詰まっていた。
小さい頃からどれだけ鬱陶しがられ、嫌がられても大洋の背を追いかけ続けた。
決して顧みることなく、遠のいていく背をずっと。
気付いたら涙が頬を伝い、顎の先で溜まって落ちていた。
テレビの中は依然、お祝いムードで賑やかなのに、琴音は一人だった。
ほんの少し前まではとても幸せな時間で、それが続いていればテレビと同じように一人ではない新年を大切な人と祝えたはずなのに。
琴音にとっての来年はもう来ないかもしれない。
これが二人で過ごす最後の元旦となるかもしれないのに、大洋は側にいない。
彼はそれでいいと思っているということだ。
あれだけ甘やかしてくれたのが嘘のように拒絶される。期待しては何度も地獄に落とされて、普段は明るい彼女も流石に心が折れて来た。
大切にされている。
けれど、愛されてはいない。
それなのに、時々愛されているような気になって、そうじゃないのだと思い知らされる。
ずっと追いかけてきて、彼のことは何だって知っていると思えていたのはいつだったのか。
もうとっくに彼のことが分からなくなっていた。