"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
新居の戸締りをし、敷地を出る。

街灯が夜の道を照らし、隣家も電気が点いていて、ふわりとカレーの匂いが漂って来る。

明日から俺が住む家は真っ暗で物悲しいのに、隣は対照的に暖かい。

不思議なことに人が住んでいるというだけで暖かく感じ、そしてそこに住む人が優しい人だと知っていると余計にそう感じる。

ここに来るまで引っ越すことは楽しみでもあったが少なからず不安もあった。ドキドキとワクワクが隣り合わせだった。

今は特に不安はないがドキドキしている。それは不安な意味ではなく、もっと違う何か。


相沢さんも一人暮らしだったり?
それなら、互いに協力できるよな。


「つか、何歳なんだ?」


まぁ、いっか。
これから知っていこう。


昼よりも涼しい風。

まだ慣れない塩っぽさを肺一杯に吸い込み、少しだけ浮かれながら坂を下る。



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