"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「なんでゆ〜君なの?」
彼女の決意に満ちた顔に湧き上がった疑問は言うつもりはなかったのに口をついていて、栄太自身驚いていた。
幸いにも絵里はコートを一心に見つめていたのでその表情を見られることはなかった。
「なんでだろうね。分かんない。千葉崎は莉乃ちゃんを好きな理由って分かるの?」
「ん〜。そう言われると難しいな」
莉乃の好きなところはいくらでも言える。
けれど、どうして他の人とは違う、彼女が好きな人であるのかということを説明するとなるとそれは難しい。
気付いたら彼女だけが栄太にとって特別だった。
付き合って何年経っても。
いや、時間が経てば経つほど特別になっている。
だからこそ、彼は手放せないでいる。
人知らず、ギュッと拳を握りしめた。
「でしょ?心が勝手にそう思っちゃってんだもん。なんでとか言われても分かるわけない。けどさ、好きってことだけは分かんの。不思議とね」
以前、悠介に言った。
それは理性の話だと。
自分でもその理屈を理解しているつもりだったが、人に言われるとよりしっくり来る。
それも、今、絵里から言われたことでストンと。
栄太は悠介のように鈍感でもなく、どちらかと言えば人より聡い方だ。
「分かるよ」
そして、見ないフリもずいぶん上手くなってしまった。