"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
パッと目を開けると、ちょうど車内アナウンスで次の駅を知らせていて、乗換の駅をとっくに通り過ぎていたことを知る。
今から戻っても、乗り換える電車の終電には間に合わない。だが、数駅戻れば莉乃の家に近かった。
莉乃の実家だが、両親は海外で仕事をしているため、基本的には莉乃しかいない。
もうすぐで午前一時。
栄太は悩んだ末に莉乃に電話を掛けた。
「もしもし?」
眠たげな声が聞こえてきた。
ホッとして用件を話す。
「起こしてごめん。終電逃しちゃったから泊めてもらっていい?」
「こんな時間まで何してたの?」
声のトーンに変化はなく、責めるような言い方でもない。どこか楽しげな質問だった。
それだけで察してしまう。
「……カラオケではしゃいで、疲れて寝過ごしちゃった」
「ふーん。いいけど、朝起きて喧嘩しないでね?」
「ありがと。始発の時間になったら帰るから大丈夫。着いたら連絡する」
「りょーかい」
クスクスと笑う莉乃の声と「誰?」と聞いたことのない低い声が聞こえて電話が切れた。
次の駅で降りて戻らなければならないのに、体が重く感じた。