"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
駅のホームに一人佇み、次の電車を待つ。
駅の電灯以外は街灯がちらほら点いているだけで辺りは真っ暗だ。
冬の午前に外で待つのは自殺行為に近いけれど、外の冷たさを感じていたかった。
深夜になって本数が少なくなっているせいか次は十五分後。本当に凍死するかもしれない。
栄太はお酒を一滴も飲んでいないので酔っていないし、ちゃんと冷静だった。
けれど、待合室に行くつもりはなかった。
連絡先をスクロールする。
だが、この近辺に住んでいる人はみんな実家暮らしで、流石にこの時間にお邪魔するのは気が引ける。
もう一つの手段としては近くのホテルに宿泊することだが、一人で泊まるには勿体ない。
やはり莉乃の家に行くしかなかった。
はぁ、と深くため息をつき、スマホをポケットに入れようとした時だった。
絵里からのメッセージが来た。
『付き合うことになった』
『ありがと』
絵里と悠介が付き合うことになった。
よかったじゃん、と打つ。
送信ボタンに指を移動させたのに、押せなかった。
打った文字を消し、通話ボタンを押した。
『はい』
「お疲れ〜」
『どうも。そっちのが疲れたんじゃない?』
「そりゃあもう〜!酔っ払いの相手だよ〜?いや〜大変だったわぁ」
いつもの調子で大げさに言う。そうすると、絵里が苛立ちを隠さずに何か返事を返す。
それがお決まりのパターン。
「ありがとう」
聞こえてきた言葉はとても素直で、本当に感謝していることが分かる言い方だった。