"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「あんたが協力してくれて、背中押してくれたから頑張れた」
「……俺はなんも。上手くいってよかったじゃん」
文字で打つことは出来なかったのに口からはあっさりと出た言葉がおかしくて笑ってしまう。
「うん」
まるで泣き出す直前のように声が湿っていた。
ずっと緊張していたものが緩んだのかもしれない。
「今日は遅いからさ、また今度話聞かせてよ」
うん、と返事が来た。
これで今日はお終いだと通話終了ボタンを押そうとしたが、「あのさ」と、スピーカーから彼女の声がまだ聞こえて来る。
「何?」
「………もしも千葉崎が私の手を借りたいならその時はいつでも言いなよ。この先悠介と別れることになったとしても、あんたとの約束は絶対守るから」
今、栄太が立っている場所は二月初頭、午前の駅のホーム。
待合室は時間の都合でヒーターは付いていないけれど風除けくらいにはなるのに、彼は外にいた。
時々、自分のことに関してもうどうだっていいと思える時があった。
"こんな日"は特に、風邪を引こうが凍え死のうがもうどうだっていいと思えてしまう。
寒さは感じるけれど、体が冷えていくことはもうどうだって良くて、その冷たさすら見ぬふりができてしまう。
だからいつも気づかない。
自分がどれだけ冷えていたのか、なんて。
「あれ、」
視界が一瞬歪んで、限界を超えた滴は静かに頬を伝って落ちた。