"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
頬を伝い、落ちるまでそれはとても温かった。
「……なんかあったの?」
「なんもないよ」
今のところは、まだ何も。
何も見ていないし、起きてもいない。
「ふーん」
本当に興味がないのか、絵里はふわぁあとあくびをした。なんとも気の抜けた声に栄太は吹き出し、声を上げて笑った。
「疲れただろ?今日はゆっくり休みな」
「うん」
眠たそうな声は無防備で、不覚にも可愛い。
「酒井、最後に一個だけ」
「うん?」
「もし、酒井がゆ〜君に振られてたとしても、その時は俺がいたからもう三人でいられないなんてことにはなってないよ。……俺がいる限り、きっと三人で意味もなく集まってた」
「じゃあこれからは?」
「二人が付き合ったって変わんないよ。俺どっちのことも好きだから、これからも二人にくっつきまくる」
「うわ〜最悪!」
そう言う割には嬉しそうな声で言う。
二人して声を上げて笑った。
静かで寂しい寒い夜だとは思えなかった。
ホームにアナウンスが流れる。
真っ暗闇を照らす電車のライトが少しずつ近づいて来ているのが見えた。
「まだ帰ってなかったの?」
「もうすぐ帰るから気にすんな。その代わり、次会った時に根掘り葉掘り聞いても怒んないでね〜」
「……それは、うーん」
夜遅くまで悠介の代わりをしてもらった罪悪感から断ることもできないが、根掘り葉掘り聞かれるのも嫌で言葉に迷ってしまう正直な絵里に栄太は笑った。
「楽しみにしてる〜。お休み」
「……気をつけて帰りなよ」
言うや否や、ブツッと通話が切れた。
ぶっきらぼうな心配の仕方はなんだかんだで絵里の優しいところだ。