"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
絵里の照れ隠し故の本心とは違った言葉は分かりやすいので誤解することはない。見ていれば本当はどう思っているかがすぐわかる。
だからつい、態度や行動ではなく、本心からの言葉を引きずり出したくなってしまって怒られることがしばしばあるけれど。
逆に莉乃は照れ隠しはしないし、基本的には遠回しな言い方もせず、言葉自体は本心と一致していて一聞して分かりやすい。
それなのに、何を考えているか分からない。
何でも話し合えるのは本当だ。
分からなくなる度に何でも聞いて、何でも話した。
けれど、話したところで理解できるかは別なのだ。
比較的、人よりも聡い方であると自負している栄太でも理解に苦しむことがあった。
そのせいで今日も会いたいのに会いたくないという相反した気持ちを抱えていて、気が重くて体もそう感じる。
栄太の莉乃への想いは変わらず、他の誰よりも特別だったが、理解できずに苦しんだり、不安に押しつぶされそうになったり、憂鬱にやけになってしまったりしてしまう。
だから、見ていれば考えていることがすぐに分かる絵里を見ていると安心する。一緒にいてホッとできる。
友人に対して思うことと変わらないけれど、それがこの間から少しだけ変わって来ていて、心が求めていることに栄太は気づいている。
「ないものねだりだ」
莉乃で得られないものを絵里で補おうとしているだけのこと。
それだけのことだ。