"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
平松が坂を上り始めるとマルちゃんは大人しく腕の中にいた。
相沢家と俺の家を通り過ぎて未開拓地を通り過ぎる。
その先は草が伸び放題の斜面になっている。
けれど、よく見ると丸太を半分に切った木の足場が階段状になっていて、人が通れるようになっている。
斜面を下り切ると林があり、その中に入って行く。
そこを慣れた足取りで進む平松について行くと公園があった。林に囲まれひっそりとしているが、割と大きな公園だ。
滑り台もブランコも鉄棒も砂場もある。
マルちゃんは嬉しそうに砂場に走って、ゴロゴロと転げだした。
「知らなかったでしょう?」
平松の問いかけに素直に頷く。
多少古びてはいるが、海側にある公園が潮で錆ているのに比べればマシだ。海側の方が公園は広いが遊ぶには十分な広さだろう。
しかし、人気がない。
「子供のいるご家庭はわざわざ坂を上ってこんな薄暗い公園で遊んだりしないから、マルちゃんも気兼ねなく遊べて嬉しいみたい。大人しい子だけど、最近は何かと厳しいからね」
そう言って平松はブランコの柵に腰掛けた。
「ここに公園があること自体知っている人は殆どいないと思うわ。この公園に誰かがいたのをみたことがないもの」
「それって、平松さんにとって秘密の場所だったりしないんですか?」
利用するかしないかは別として、俺に教えて良かったのだろうか。