"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「秘密なんてそんな大それたものじゃないわ。誰かに見つかったらそれまでの話だもの。町田君に教えたのはどうして私が坂の上にいたのか気になっていたみたいだから誤解を解いておこうと思ってね」

図星に固まる俺にクスリと笑みを浮かべた。

「いいのよ。最初の印象が悪かったものね」

「それなら俺の印象も悪かったでしょう?」

「どうだったかしら」

首を傾げ、とぼける平松。
俺は同じように柵に腰掛けた。

謝まるよりもそれが正しいような気がした。


平松と俺の視線の先には砂塗れになるマルちゃん。

「あーあー、ドロドロだわ」

「なんか子供みたいですね」

「ふふっ、そうねぇ。十八年も生きてるおばあちゃん犬のくせにいつまで経っても子供のまま。我が子ながら可愛いわ」

「他人から見ても可愛いです」

ふふっと上品に笑った平松は嬉しそうだった。


「親バカだと思われるかもしれないけど、我が子自慢をしてもいいかしら?」


頷くと平松は滔々と話だした。


平松の家には子供がおらず、平松にとってはマルちゃんが子供なのだということ。

しかし、子供がよく利用する公園に行くと時折、自分にもし子供がいたらと考えることがあるらしい。

そんなことを考えて物悲しくなってしまう度にマルちゃんは擦り寄って甘えてくる。

人懐っこい性格なので普段は小さい子にもじゃれに行ったりする子なのに、平松が少しでも悲しいと感じればそれをすぐに察知してこの公園に連れてくるのだという。


「子供っぽいと見せかけて、なんでもお見通しな大人な一面も持っているの。賢くて優しい子」

私のこと?というように平松を見るマルちゃん。
仰向けになっていた体をゴロンと転がし、ゆっくりとこっちにやって来る。


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