"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「でも、最初からいい子でも無かったのよ。子犬の頃は本当にやんちゃでいたずらっ子で手を焼いたわ。それに、元々動物って好きじゃ無かったから本当に大変だった」
「今はこんなに溺愛してるのにですか?」
「ええ。今でもマルちゃん以外の動物全般触れない」
砂塗れのマルちゃんの体を優しく払うと、周りに砂煙が立ってマルちゃんがくしゃみをした。
まるで人間がするようなくしゃみだった。
平松が抱っこしようとするとマルちゃんはバタバタと暴れて砂場へ戻って行った。
「最初は苦労はしたけど、一緒にいる時間が長くなれば長くなるほど愛おしくなってくるのよね。憎らしいところも全部」
憎らしいというのはさっきのようなことなのだろう。
行き場を失った手の土埃をパンパンとわざと大きな音を立てて払った。
「きっとマルちゃんも平松さんのことが大好きなんでしょうね。連れてきた旦那さんとどっちの方が懐いてるんですか?」
「夫は連れてきたくせに何にもしないのよ。家にもほとんど帰ってこないから毎回会う度に誰?って顔をされてるわ」
平松は深いため息をついて、にっこりと笑った。
ざまあみろ、という声が聞こえるようだった。
関わりがないなら懐く筈もないが十八年も飼っていて未だに他人扱いされるのか。それはそれで悲しい。