"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「ここまで連れてきて今更なんだけど、町田君今日は用事とかない?大丈夫?」
「いえ、今日は何も。この種を植えるくらいです」
手に持っていたジャガイモの種の小袋をシャカシャカ鳴らし、買い物袋に入れた。
「遠慮して帰れなかったんじゃない?引き留めるみたいに私が長話してしまったから」
「そんなことはないですよ」
引き留められたつもりも帰るタイミングを図っていたわけでもなかった。用事もない暇な一日だ。
ただ、不思議なのは知り合って間もない近所に住むマダムと人気のない公園でお喋りしていること。
それも結構深い内容の話。
俺だって普通ならこんなに話し込まないし、そもそも付いて来てさえいない。
けれど、平松に「ついてきてみる?」と言われた時に断らなかったのは単純に公園がどこにあるのか気になったこともある。
もう一つの理由としては、平松がまるで子供を見るように優しい目つきをしているのにどこか寂し気だったからだ。
今にも消えてしまいそうな人を俺はもう一人見たことがあって、どうしても放っておくことができなかった。
結果的に気の利いた言葉一つ言えやしなかったけれど。