"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
マルちゃんがまた走ってくる。
足を動かす度に砂が飛ぶので、漫画で言うならものすごく速く走っているシーンに近いのに実際はそんなに速くない。
平松の前にお行儀よく座るマルちゃん。
お利口に座るのはいいが砂塗れだぞ。
俺はそんな愛らしい姿に思わず笑ってしまった。
「触ってもいいですか?」
「ええ。あ、砂払うからちょっと待ってね」
そう言ってパタパタとマルちゃんについた砂を払う平松にマルちゃんはちょっとだけ嫌そうに目を細め、何度もくしゃみをした。
マルちゃんに触れてみる。
砂場で遊んだせいで毛と毛の間に砂が混じって所々ザラザラしていたりする。
しかし、手入れが行き届いてるせいか砂塗れになる前の見た目通り、毛並みは良い。
ただ、所々に白髪もあるし、触ってみて初めて分かったが痩せている。病的に痩せているわけではないので老いた動物の特有だろう。
どんな動物も老いには逆らえない。
体を労わるように優しく丁寧に撫でた。
「ありがとう」
なんだか泣き出しそうな笑みで平松は言った。
俺は掌の暖かさを忘れないようにもう一度優しく撫でてから家に帰った。
それが最後だった。