"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
彼にとって向日葵がどれだけ大切かということを思い知らされる。
(いつからそんなに大事にしてるの?)
少なくとも琴音が知っている限りでは彼は向日葵が特別好きというわけではないし、もっと言えば花に興味すら示さなかった。
琴音が育てた花を何度見せても興味すら持たず、不可解そうな目を向けてきた彼が今や自ら大事に育てている。
仕事だって忙しいのに、毎朝毎晩チェックしてまで枯らさないようにしている。それほど大事なのだ。
向日葵を、というよりも。
向日葵の種をくれた人、育てた向日葵を送る人を。
琴音は会ったことはないが、それが誰なのかは知っていた。
大洋が向日葵の花言葉を知っているかどうかは定かではない。
けれど、「絶対に枯らさない」と言わせるほど大事にしているということが彼の思いの全て。
花言葉の意味を知っていようが知っていまいが、彼の思いや行動は花言葉の意味と同じなのだ。
戦いようもない。完全に勝ち目のない相手に対して黒くて重たい感情が迫り上がってくる。
同時に涙もこみ上げて来てパッと下を向く。
どれだけ一緒にいても、どれだけ愛しても届かない。
それがとても苦しくて、虚しい。
「今年も楽しみにしてるね」
無理やり笑みを貼り付けるが顔を上げられないまま自室へ戻った。
襖を閉めた瞬間、涙が溢れ、声を押し殺して泣いた。