"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
暫くは床が抜けたまま生活しつつ、次の住処を探した訳だけど、俺はバカだった。

他の住民たち(大学生)に聞いたところ「こうなることはわかってたからある程度は調べてた」と、既に大学に近く、そこそこ快適そうで、かつ、格安な物件を押さえてやがった。


提示条件に当てはまる物件はとっくに契約済み。どうりであらゆる不動産屋に駆け込んでも無い筈だ。チクショウ。


このままではまずいと思っていたある日のこと。
アパートの管理人からある物件が紹介された。


・海が見える静かな町
・駅から徒歩十分圏内
・平屋(2DK)
・風呂トイレ別
・家賃、タダ


なんて優良物件。


問題があるとすれば、大学の最寄り駅からその物件の最寄り駅は五駅分。徒歩を含めると大学までの片道は約四十分かかる。

遅刻ギリギリまでグースカ寝ることは出来ないし、バイトやサークルにも時間的な制限が出てくるだろう。


なるべくなら大学に近い方がいい。
………が、月々の家賃は大学生の最大の敵。


あのボロアパートが安いだけであって、他のアパートやマンションは最低でも二、三倍はする。それなら定期代と光熱費やらだけで済む方がよっぽど安い。



食いつくよな。


とはいえ、いいとこ尽くめすぎる物件は怪しすぎて信用ならない。そこで、管理人に確認してみれば。


「じゃあ、夏休みの間住んで良ければ、そのまま住んでもらったらいいし、嫌なら他の物件を探す間の止まり木みたいなものでいいから」


と、おっしゃった。


それならば、ということで。

最後まで次の住処が決まらない俺への同情心と床にはまった犠牲者への償い(あと多分、管理人によるアパートからの追い出し)により紹介された平屋にとりあえず、夏休みの間はお試しで住むことになりました。


引っ越しです。


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