"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
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スーパーで一人で買い物をする時は混雑時を避け、まず後ろを見てから商品に手を伸ばす。

レジに並ぶ時も常に後ろに気を配っている。

けれど、坂を上る時は横幅の広い道だからかどこか安心してしまって気を抜くことが多かった。

琴音の場合、重い荷物に気を取られていることも多かったが、近所の人に声を掛けられたりする前には距離があるので今日のようなことにはならなかった。

それにもう、随分とこんなことも起きていなかったので油断していた。

どうしてこんなことが自分の身に起きるのかさっぱり分からないせいで治しようもなく今に至る。

手先が冷たく、震えが止まらない。

悠介に家まで送られた琴音は買い物袋の中身を何とか冷蔵庫に入れ、自分の部屋に入る。

襖を閉めた瞬間、涙が溢れた。

何故こうなるのかは彼女自身わからない。

ただ、この発作めいたことが起きる度、涙が止まらなくなる。胸が苦しくなり、とてつもない悲しみが襲ってきては何かを失ったような気持ちになる。

これが一体何なのか、ずっと分からないでいる。


身体中の水分がなくなるくらい泣いた。
いつのまにか外は真っ暗になっていた。

「琴音?」

部屋の外から大洋が呼びかける。
けれど琴音は返事すらできなかった。

普段ならもう夕食の準備を済ませているはずの琴音が何一つ手をつけておらず姿もない。

返答のない部屋に大洋は静かに入った。
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